2023年01月03日

「フィリップ曲線を追放せよ」(元FRB当局者)

ステファニー・ケルトン(MMT派の経済学者)の記事、"Debating the R-Word"で、クローディア・サームという元FRBの当局者(多分MMT派ではない)の記事("Burden of proof is on the inflation hawks now"「今や立証責任はインフレタカ派にある」)を勧めていたので、それからこの人の記事もちらほら読んでいるのですが、この人の記事も良いんですよね。

ケルトンの記事で見るまで全く知らなかったのですが、サーム・ルールという失業率の推移と不況入りについての「経験則」で話題になったことがあるみたいですね。(命題でもなければ自然法則でもないのにそんな感じで使われることがあるとのこと。 "Repeat after me: the Sahm rule is an empirical regularity. It’s not a proposition; it’s not a law of nature." "The Sahm rule: I created a monster"より)

上の2つの記事も良いんですけど、

"Ban the Phillips Curve"「フィリップ曲線を追放せよ」

について。

フィリップ曲線は、

"The model created in 1958 says that to get inflation down, unemployment must rise. Low unemployment, as we have now, is a sign of a strong labor market, which fuels strong demand. Strong demand leads to high inflation. The Fed raising interest rates is the primary policy tool its believers call for to fight inflation."

「そのモデルは、1958年に作られ、インフレを抑制するためには失業率を上げなければならないというものです。現在のような低失業率は強い労働市場の表れであり、それが需要を高め、高インフレへとつながります。FRBによる利上げは、インフレと戦うためにその支持者が求める主要な政策手段です。」

MMT派の本(『財政赤字の神話』、『MMT現代貨幣理論入門』、『ミンスキーと〈不安定性〉の経済学』)でも紹介されていて、「そんなバカな!」という感じでしたが、ローレンス・サマーズ(元米財務長官で経済学者、サームやケルトンの記事によく出てくる印象)も本当にそれっぽいこと言ってますね・・・。

でもそれは間違っている(そもそも成り立つ方が稀)という記事ですね。供給側の変化があるじゃないかと。

"Cinging to the Phillips Curve threatens the U.S. economy. We don’t need a recession; we don’t need sky-high interest rates. We need more workers and investment. This is not an academic debate; our future is on the line.

Want lower inflation? Want to solve the labor shortages? Start thinking about supply."

「フィリップ曲線にしがみつくことはアメリカの経済を脅かします。不況は必要ありません。超高金利は必要ない。より多くの労働者と投資が必要なのです。これは学術的な議論ではありません。私たちの未来がかかっているのです。

より低いインフレが良いですか?労働力不足を解決したいですか?供給について考えましょう。」
※投資って言っているのは、ただの金儲けって意味ではなく、設備投資とかの供給サイドに働きかける意味で言っていると思います。供給とは無関係に、「株式投資とかで儲けて老後資金を作りましょう!」とかではなくて・・・。

「フィリップ曲線を追放せよ。(「捨て去れ」の方が訳として適切かも?笑)」

良く知らないとは言え、元FRBの当局者がそれを言うのは心強い気がします。色々変わってくれると良いんですけどね。

以上です。
posted by ゴマフ犬 at 17:58| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月02日

市場が公益を判断する?

日銀の「事実上の利上げ」といわれる決定についてのこんな記事がありました。

2023年、日本経済は大転換へ〜市場の圧力が「日銀の不合理な政策」を変更させた

日銀の決定の是非については、そもそも国債のイールドカーブとその他の債務の金利の連動の仕方がそこまでわかっていないレベルなので(市場関係者の営利目的に従えば、国債の金利が凡そその下限になるというぐらいの理解、笑)、何とも言えませんが、国債について、

「マーケットがそれを日本経済にとって望ましくないと判断すれば、市場金利が上昇して資金調達コストが上昇し、そうした財政支出は抑圧される。」

「マーケットがそれを日本経済にとって望ましくないと判断すれば」って、要は国債売買にかかわる市場関係者がってことだと思うのですが、当人たちは大方、日本経済にとってというより、自分の利益のために行動しているだけでは?

「財政支出を市場の判断にさらすというメカニズムを維持することは、財政支出の無制限な膨張を防ぐために、本質的な意味をもっている。」

って、民間人の一部でしかない市場関係者に財政支出の是非を判断をさせるっことでしょうか・・・?そもそも利害関係者なんじゃ・・・。

「財政支出の無制限な膨張を防ぐために」っていう意図は分かりますし、何らかの抑止装置は(議会も選挙もあるけど頼りない気も確かにする。今は逆に効きすぎている気もしますけど・・・。)あった方が良いのかもしれませんけど、利害関係者の集まりである「マーケット」の判断はないんじゃないの?と。

そもそも、

「ただし、このことは、無条件で成立つわけではない。仮に財政法第5条で禁じられている国債の日銀引き受けが許されると、以上のメカニズムは働かない。したがって、財政法第5条を堅持することは、極めて重要な意味を持っている。

2022年の12月1日に発行された10年国債の半分以上がその日のうちに日銀に買い上げられた。このニュースはさして注目されなかったのだが、大変重要なものだ。このような行為は、財政法第5條の脱法行為と考えざるをえない。」

とあるように、本当にやりたかったら現状でも、「財政支出の無制限な膨張」って起こりえますよね?
寧ろ本気でやる気なら普通にやるんじゃないのと。

本人の本や経済学の教科書とかで読んだわけでないので確かなことは分かりませんが、『ミンスキーと〈不安定性〉の経済学』(L・ランダル・レイ著)の中に、ハイマン・ミンスキーのワーキングペーパーの記述として、

「経済学者も実務家も、政策を立案し、提唱する際には、市場は常に公共の福祉の促進につながると説くスミスの理論と、市場プロセスは経済の資本発展を十分に達成しない、すなわち公共の福祉の促進以外の結果を導く可能性があると説くケインズ理論の、どちらかを選択しなければならない。」

とあるのですが、こちらの(アダム・)スミスの理論に則った考え方なんでしょうか?
せめて一般論ではなく、《この場合には》その考えが正しいと言える理由が欲しいですね。
ちょっと個人的には理解できません。本でミンスキーの考えとして紹介されている「安定性が不安定性を生み出す」という言葉に影響を受けている部分もあるのでしょうけど。(利上げについてもステファニー・ケルトンのsubstackの記事、"(When) Will the Rate Hikes Break Something?" "Think About Minsky for a Moment" などの影響もあって、バイアスがかかっている可能性も否定はしない。)

再び記事に戻って、

「日銀が民間銀行から国債を購入するのは、銀行が日銀に持っている当座預金を増やすという操作によって行われる(しばしば、「日銀は紙幣を刷って国債を購入する」と説明されるが、この説明は誤りだ)。」

個人的にはこれは良いです!(金融緩和を「日銀が紙幣を刷って」とか個人的には「何言ってんの?」という感じでイライラしていたもので、笑。現金引き出しの需要に応じて刷れば良いだけでしょと。)

以上です。続きを読む
posted by ゴマフ犬 at 21:38| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

経済の自動安定化装置

最近、英語の勉強も兼ねてステファニー・ケルトン(MMT派の経済学者)のsubstuckなるものを読んでいるのですが、こんな記事がありました。

"Policymaking in a Pan(dem)ic
The case for stronger automatic stabilizers.
"

「パニック(パンデミック)の中での政策立案
より強力な自動安定化装置の場合」

この自動安定化装置っていうのは、


"For example, in a slowing economy, more people become eligible for unemployment insurance and food stamps, so government spending automatically increases in those categories of the federal budget. Meanwhile, tax receipts automatically decline as the weak economy leaves corporations and individuals with less taxable income. With higher spending and lower tax revenue, the federal deficit automatically increases. The bigger deficit cushions the economic slowdown. In a booming economy, the reverse happens."

「例えば、不景気のときには、失業保険やフートスタンプの対象者が増え、それによってそのカテゴリーの政府支出が自動的に増加します。その間、弱い経済により企業や個人の課税所得が減少するため、税収は自動的に減少します。より多くの支出とより少ない税収の結果、政府の赤字は自動的に増加します。より大きな赤字が景気減速を和らげるのです。好景気のときにはその逆が起こります。」

要するに、(民間の収入が減る)不況のときには政府が赤字を増やし、(民間の収入が増える)好況のときには政府の赤字が減る現象を《自動的に》起こして民間の収入を安定化させる仕組みということかと思います。

そして、世界金融危機(リーマンショック)のときに主に効果があったのは、アメリカ政府やFRBによる《裁量的な》政策は少なすぎてほとんど効果はなく、《自動的な》安定化装置によるものだったと。(ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンの記事も紹介しつつ。“Deficits Saved the World.”)

それに対して今回の(コロナの)パンデミックでは、自動的な安定化装置によるものだけでなく、議会やホワイトハウスによる《裁量的な》政策による「赤字」が世界を救ったのだと。

実際、世界金融危機の時にはその時に失った900万の雇用を取り戻すのに、ほぼ7年かかったのに対して、今回のコロナ不況ではたった2年半で2200万もの雇用を取り戻したのだと。

ただ、将来的にはパニックの中で政策を取りまとめることは避けるべきであって、その方法の一つが自動安定化装置を強化することだと。(その1つが就業保証プログラム(JGP)ってことだと思う)

そりゃまあ、政府は間違いを犯すものですからね。場合によっては(というかたいていの場合?)意図的な気もしますけど・・・。

良い記事だった。

ついでにビル・ミッチェル(MMT派の経済学者)が、最近騒がしい日銀の決定について書いているブログも紹介しておきます。

"Bank of Japan has not shifted direction on monetary policy"

「日銀は金融政策の方針を変更していない」

この記事については正直理解できない部分もあるのですが、

"The Bank officials couldn’t care less about any ‘book’ losses that appear on its balance sheet as a result of interest rate changes affecting the sale price of the bonds they have previously bought.

All this talk around the globe at present about central banks taking losses totally misses the point that they are not commercial banks and can carry on with negative capital forever."

「日銀の職員にとって、金利の変更が自身が以前購入した国債の取引価格に与える影響の結果として現れる《帳簿上の》損失などどうでも良いことです。
現在、中央銀行が損失を被っているという世界中のこういった話は全て、それらが商業銀行ではなく、永遠にマイナスの資本であり続けられるという点を完全に見逃しています。」

全くです(苦笑)。

今回は以上です。
posted by ゴマフ犬 at 20:50| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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